【短編】卒業の思い出
外を吹き抜ける風がこころなしか熱くなってきた、日差しを
浴び、机の前にある窓の外を眺めながら、物書きをしている少女がいた。
ときより書き進めては、紙をまるめ傍らに置いて、また書き進めることを暫く繰
り返していたが、ふと、目の前にある本を手に取り、それを開いた。
そこには、いろいろな風景や子供たちの姿があった。
コンコン・・・
使い慣れた自分の部屋のドアをたたく音がした。
そのドアに振り返ることもなく、その本のページに目線を落としたまま、
返事をした。
その少女は、
「私、ノイシュ・・・はいっていいかしら」
とドアの前で言ったが何も返事がないので、そっとドアを開けてみた。
入ってきた少女は、髪が金色でいかにも清楚な感じを受け、それは伝説の女神
を思わせるかのような印象があった。
物書きの少女は、部屋にはいってきたその金色の髪の少女を振り返りもせず、
その本を見つめたままだった。
「どう？はかどってる？」
「・・・ん・・・まだ・・・・」
言葉少なく話した少女の名は、エルツ。ついさっきあがってきた台本を見ながら
演出を考えていたが、今はじっと本を見ている。。
エルツが振り向かないので、背後からのぞき込むようにして、じっと見つめた
ままの本を見た。
「それ・・・卒業アルバムね」
「そう・・・小等部のね。ぜんぜん思い出もない・・・」
9〜１０才の初等部より前・・・地球で言うところの幼稚園・・・小等部がある。
「エルツって、どの子？」
「・・・ここ。」
「かわいい〜これって、運動会かなんかの？」
そこに写っていたのは、ちっちゃな女の子が、必至に走っている・・・傍らに
体操着を来た大人の人に応援されながら・・・そんな光景だった。
「このころ、からだが弱くて、学校に満足にも行けなかったの・・・周りの大人
たちは猛反対したけど、どうしても出たくて・・・いつ倒れてもいいように一緒に
走ってたのは、私の両親でなくて・・・いつも心配してくれている先生だった
の・・・」
「お父様やお母さまは？」
「そのときも仕事が忙しくて、来てくれなかったの・・・私が走れば心配で来ると
思ったんだけどね・・・」
「・・・」
「私が走っているとき、周りの人は迷惑そうにしてたっけ・・・病気もちなんだか
ら・・・って見てた・・・」
「そんなことないと思うわ。ちゃんと応援してくれてた人いたでしょ・・・」
「その人だって、そのときだけでしょ。私が入院したって、誰も見舞いに来なかっ
たし・・・」
「・・・」
「・・・私も変な意地張って、卒業アルバムの写真を撮る日も、写真いるときだけ
いて、そのあと卒業式も出れなかった。」
「だから、この集合写真も、みんなと一緒にいるけど・・・嘘の写真だし、私の思
い出もこの２枚だけ、他のページをめくっても私は出てこないし、見ても知らない
し・・・なにも思い出がない・・・」
「・・・」
「この間ね・・・何年かぶりに小等部にいったの・・・そしたらね。その校舎が
取り壊されていたの・・・近所の人に聞いてみたら、この辺の子供も少なく
なったんで、ここに新しく合併した小等部をつくるんだって・・・」
「・・・」
「思い出のないのにね・・・・それを見ていたら・・・泣いちゃった・・・」
「・・・」
「・・・もう卒業の年ね・・・」
「そうね。」
「初等部も中等部も卒業と言ってもそんな感じはしなかったんだけど、今回は
この演劇もあるし、特別なものになりそう・・・」
「そうね・・・」
「成功させて、本当の卒業アルバム・・・心の中に入れたいな・・・」
「エルツならできるわよ。」
コンコン・・・
「フェルデンだけど、入っていいかしら？」
「どうぞ」
入ってきた少女は水色の髪を束ね、貴婦女の感じを内面から感じさせた。
「ノイシュ来てたの・・・はい、これ。この間頼まれてた本。」
「ありがとう。やっぱりフェルデンのことあって探してくるの速いわ。」
「そんなことないわよ。」
「本と言えば、フェルデンよね。ノイシュ」
「そうそう、学園全ての本を読破した・・・で有名な・・・」
「・・・そんなことないってば」
あはは・・・
それから３人は、いろいろな話をした。演劇の話、恋の話・・・
外を吹き抜ける風がこころなしか熱くなってきた、日差しが
西に傾き、外には暗やみが降り始めていた・・・
３人はそのことに気づかず、今も話し続けている。
そう、世界の崩壊が起こり始めていることも・・・
** エルツFC【トリフェルズ演劇団：エルツの"え"】団長/総監督 ＦＩＸＹ **
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