【地上の月】
よく晴れた夜空の、本来あるはずの場所に月の姿が見えなくても、
案外人々はそれに気付かないものだ。
だけど女の子は知っている。
そんなとき月は、谷川の、大雨が降るたびに水没する岸辺の、
一株だけ目立って生い茂ったカツラの木の根方に埋もれ、身をひそめている。
それを掘り起こすときは裸体にならなければならない。
そして、闇の底に息がはずみ、スコップが突き入れられるたびに、
しだいに地中から差しはじめる月光を浴びて、
女の子の体の丸みを帯びた箇所が、
もう一つの月さながらになまめく様子を、
虫や鳥や獣や、その他の森の生物たちが見とどけている。