NEON GENESIS EVANGELION

Genesis Q:01





「起きなさいよ、バカシンジ!」
午前8時、碇シンジの部屋に目覚まし時計より正確で、確実で、無慈悲な朝の使者がやってきた。
その背中に翼を隠していても不思議ではないような可憐な美少女は、それが当然のように少年の部屋に入り込むともう一度怒鳴った。
「バカシンジ!!」
枕元で怒鳴られた少年はしかし、びっくりして起きあがったりはしなかった。
ゆっくりと眠そうな目を開けると、ぐるりとあたりを見回し、その先に少女を見つけた。

「なんだ・・・アスカか、ふわーーーー」
自分をのぞき込む幼なじみの顔を見たシンジはそうぼやきながら、大あくびをはいた。
「なんだとはなによ。それが起こしにきてくれた幼なじみに対する感謝の言葉なの!」
「うん、・・・じゃあ・・」
そんなことはお構いなしにずるずると布団に潜り込むシンジ。
「なにやってんのよ。遅刻しちゃうでしょ」
アスカの手がシンジの掛け布団を掴む。
「幼なじみのわたしが起こしてやってんのよ。少しは感謝して、とっとと起きなさい!」
布団をひきはがしながらアスカがまた怒鳴った。勢いでベットから落ちるシンジ。
「なにすんだよー」
ベットから落ちたシンジは頭をさすりながら抗議の声を上げた。
だが、アスカは聞いていなかった。シンジの体の一部を見つめて真っ赤になったまま凍り付いている。
その一瞬の空白の後、アスカが右手を振り上げる。
「エッチ!チカン!ヘンタイ!信じらんない!!」
パン!!
派手な音がして、シンジははり倒された。
「しょうがないだろー。朝なんだから!!」
シンジの言い分はもっともなのだが、同い年のアスカにそんな理屈がわかるはずもない。
恒例の口げんかが始まる頃、碇シンジの遅い朝があわただしく始まる。



「まったくシンジったら、しょうがない子ねー」
台所ではシンジの母、ユイが朝食の後かたづけをしていた。
いつもシンジの分の朝食も作るが食べる確率は50%ほどだ。
「あなたも新聞ばっかり読んでないで、ちゃんと仕度してください」
ユイの声の先には、シンジの父ゲンドウがいた。
「ああ」
朝刊を読みふけっているゲンドウは上の空だ。
「まったく、いい年をしてシンジとおなじなんだから・・・」
「ああ」
「会議に遅れて冬月先生におこごと言われるの私なんですからね」
「君はもてるからな」
「なに言ってんですか」
こちらも、同じような会話を毎日繰り返している。
「君の準備はいいのか」
「ええ、いつでもどうぞ」
「わかったよ、ユイ」
といいつつ、新聞から目を離そうとしないゲンドウであった。


「シンジ、はやくしたくしなさい。遅刻しちゃうでしょ」
アスカとシンジのやりとりはまだ続いていた。
「わかってるよ、アスカはうるさいなー」
「うるさいとはなによ!」
パン!!
今日の二発目は左頬を赤く染めた。


「それじゃ、おばさま、いってきまーす」
元気なアスカに突き飛ばされるようにシンジは家を出た。
「はーい、いってらっしゃい」
ユイの声は聞こえたかどうか。
「ほら、あなたもとっとと仕度してください」
「わかってるよ、ユイ」
そこで、初めて新聞から目を離しゲンドウがユイに目を向けた。
「あれは、今日だったな」
「ええ、今日です」
ユイはそう答えて最後の皿を片づけた。






シンジとアスカは中学校に向かってひたすら走っていた。
車道は渋滞でぎっしり、ちっとも動かない。
「今日、また転校生が来るんだよね」
走りながらシンジがアスカに声をかけた。
「ええ、ここも来年には正式に遷都されるんですモノ。これからも人はどんどん増えるわ」
「そうか、どんな子かな。かわいい子がいいな」
勝手に女の子と決めて掛かっている。この辺が男子中学生の基本的な発想だ。転校生はかわいい女の子でなければならないのだ。
「・・・」
勝手に妄想に浸るシンジをジト目で睨むアスカ。
その視線にも、無論、視線の意味にも気づかず、妄想に浸るシンジ。

ドン!!

突然、シンジは横道から飛び出してきた何かに激突されて吹っ飛んだ。
頭をぶつけたのか目の前で星が回っている。
「シンジ!」
アスカの声が聞こえたような気がした。
「いたた、」
激痛がようやく治まりかけた頃、シンジは自分の視界に白くて形のいい脚があることに気づいた。その先にさらに白い布のようなものが見えたとき、それは急に違うモノで覆い隠された。
「あ、」
そのときになってはじめてシンジは自分になにが起きたかを悟った。
横から飛び出してきた少女にぶつかった、いやぶつかられたのだ。
互いに転んだようで、シンジがいましがた見たモノは彼女のスカートの中身だったらしい。
「ごめんね」
少女が先にあやまった。シンジが見たこともない制服を着ている。違う学校の生徒だろうか。年は同じぐらいだ。しかも、かわいい!
少女の頬が赤く染まっている。それはそうだ。同年代の男の子にパンツを見られたのだ。
シンジはシンジで少女の顔を見たとたん、固まってしまった。
「ほんと、ごめん。マジで急いでたんだ」
そう言い残すと、少女はツバメのような軽快さで立ち上がり、そのまま駆け出した。
「ごめんねー」
振り返りながら、もう一度そう言った。
それまで、惚けたように少女を見つめていたシンジは我に返った。
振り向いた少女の顔と、きれいな脚、そして・・・・
思わずにんまりと顔がゆるむ。
「かわいかったなー」
その後ろで、すっかり忘れられたアスカが今日三発目のびんたを用意していた。






第壱話

天使登場






「それで、みえたんか」
何とか間にあったシンジが今朝の出来事を悪友のトウジとケンスケに語っていた。
「んー、見えたってゆうか、ほんの一瞬、ちらっとだけ」
「かー、朝からラッキーなやっちゃでー」
心底そう思っているのが良くわかるトウジのリアクションだ。
「鈴原、ばかやってないで、ごみ捨ててきて。週番でしょ」
そんなトウジの耳をつかんで学級委員長のヒカリが割って入った。
「なんや、いいんちょー」
情けない声でトウジがヒカリを見た。
その顔は本気で怒っているときのモノだ。
「やばい」
トウジの打算は一瞬で終了し、
「今すぐやりまーす」
と駆けていった。
「まったく、もう・・・」
まだおさまらないのかヒカリはぶつぶつ言っている。
その有り様を見てシンジが一言。
「尻に敷かれるタイプだな」
誰でも他人のことは良く見えるらしい。
「あんたもでしょ」
同じ感想をもった、アスカがそう突っ込む。
「なんでぼくが尻に敷かれるタイプなんだよー」
シンジは本気で抗議した。
「見たまんまじゃなーい」
アスカの指摘は限りなく正しい。
「だいたいアスカがいつも・・・・・」
そんな二人の口げんか、あるいは痴話げんかを横目で見ながら、ケンスケがぽつり。
「へいわだねー」

・・・・・・・・・・・・

遠くから爆音が近づいてくるのに最初に気づいたのはそのケンスケだった。
「来た」
すぐにバックから愛用のビデオカメラをとりだして外を見る。
そのときには既に校門を抜けた赤いスポーツカーが吸い込まれるように駐車場に止まるところだった。
シンジとごみ捨てから帰ってきたトウジがケンスケと同じ窓に駆け寄る。
「いらっしゃったでー」
車のドアが開き、形のいい脚が出てきた。
律動的な動きで立ち上がるとサングラス姿の美女が現れた。
「ミサトせんせー」
シンジ、トウジ、ケンスケが同時に叫ぶ。
サングラスをとったミサトがにっこりと微笑んでピースサインを送る。
それをアップでとらえるケンスケ。
第三新東京市立第一中学校2年A組担任の葛城ミサトは、そのルックスとプロポーションと飾らない性格で男子生徒に絶大な人気を持っていた。
「やっぱえーわーミサト先生」
「うんうん」
トウジの言葉に心から同意するシンジとケンスケ。
そんな三人を尻目にアスカとヒカリが異口同音に吐き捨てた。
「さんばかトリオが、ばっかみたい」



「よろこべ男子」
教室に入って来たミサトの第一声だ。
「話題の転校生を紹介する」
ミサトの後ろからひょっこりと女の子が現れた。
「綾波レイです。よろしくおねがいします」
魅力的な笑顔でぺこりと頭を下げた。
と、そのとき、
「あーーーーーーーーーーーーーーー!!」
教室に響くシンジの叫び声。
なんと転校生とはシンジが朝激突したあの脚のきれいな美少女ではないか。
「あーー、あんた、今朝のパンツのぞき男」
転校生−レイも覚えていたらしい。もっとも、根に持っていたようだ。
「ちょっと言いがかりはやめてよ。あんたが勝手に見せたんじゃない」
間髪入れずアスカが立ち上がった。
「なによ、その子のことかばっちゃってさ、なになに、あんたたちできてんの」
アスカの速攻にカチンときたレイが言い返す。
「う・・」
言葉をつまらせて、後ずさるアスカ。
「ちょっと、授業中よ、静かにしてください」
使命感に燃えるヒカリが叫ぶ。
「あーら、いいわよ。あたしも興味あるし、つづけてつづけて」
だが、教師ミサトの言葉はどこまでも軽かった。
どっ、と笑いが巻き起こる。
「葛城先生!!」
怒鳴るヒカリ。
「なんだ、やっぱりできてるんだ!」
追い打ちをかけるレイ。
「なによ、あんたには関係ないでしょ!」
耳まで真っ赤なアスカ。
「え、、、」
状況についていけないシンジ。
教室は前々から(かなり確信に近い)噂になっていたアスカ&シンジの関係についてかなり盛り上がっていた。
「う、うらぎりもーーん」
涙を流しながらシンジの胸ぐらを掴むトウジ。
「お前だけはお前だけは、そんなことせーへんやつやと、信じとったのに」
「何のことだよ、トウジ」
狼狽えるシンジ。
「シンジーー、おんどれがー」
さらに詰め寄るトウジの耳を
「なにやってんのよ、鈴原」
ミサトとやり合っていたはずのヒカリが掴んだ。
「あたたたた、いいんちょー、なにすんのや。わいはシンジと話があるんや」
「いいから座りなさい!」
凄みのある声だ。
「ははーん、そっちはそっちでできてるんだ」
レイのねらいすました一撃がヒカリの心臓を直撃する。
リトマス試験紙が赤面するほど瞬間的にヒカリの顔は赤くなった。
「あら、図星だった」
心底楽しそうにレイがわらう。
「な、なんですって・・」
ぶるぶると震える、ヒカリ。
いまや、教室中が新たな話題に盛り上がり始めている。
「あのいいんちょーが・・・・」
「鈴原だってよー」
「トウジもやるもんだな」
「しかし、その節はあったよな」
「あー、腹減った」
「あの最終回は納得いかねーよなー」
などなど、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
ミサトは止めようともせず、悠然と構えている。
「う、う・・・」
ヒカリの肩の震えが大きくなる。
「うるさーーーーーい!!!」
びりびりと教室中の空気が振動するような大声だ。
「いい加減にしなさいよ!」
全員を睨みまわすヒカリ。
しーーーーーーん。
静まり返る教室。
「葛城先生」
「はい」
既に笑えないミサトだった。
「続けてください」
「はいはい」
ミサトは立ち上がると教壇に立った。
「じゃあ、綾波さんの席は窓側、シンジ君の横ね」
何気ない言葉だったが、アスカの眉がぴくりと反応したのをシンジは見逃さなかった。
「はーい」
気を取り直したレイが席に着く。席に着く瞬間シンジを見て一言。
「さっきはごめんね」
てへ、と舌を出して笑った。
「え、いや、いいよ。そんなこと」
やっぱり、かわいい。
シンジがそんな感激に酔いしれていた頃、彼の後ろでアスカは一つの決意を固めていた。
「あとで2・3発ひっぱたいてやる」
むろんひっぱたかれるのは不幸なシンジだった。






「あれ、転校生は」
シンジは昼休みになって気が付いた。レイの姿が見えない。
「今日、引っ越しの荷物が届くとかで、早退したわ」
ヒカリが教えてくれた。
「え、じゃあ、今日はどこから来たの」
「昨晩はホテルに泊まって、学校に直行したそうよ」
ヒカリも朝の騒ぎから回復して、いつもの冷静さを取り戻したようだ。
「気になるの、碇君」
ヒカリがシンジの顔をのぞき込む。
「そ、そんなんじゃないよ」
なぜだかわからないが、シンジは狼狽した。
「ふーん」
意味ありげな視線でシンジを一瞥するとヒカリはすたすたとシンジから離れた。
行き違いでトウジとケンスケがやってきた。昼御飯のパンを買ってきたらしい。シンジは母の作った弁当持参だ。
「今日も、えらい混んどったで」
「まったくだ。やきそばパンがなくなってやしないかとハラハラしたよ」
シンジも何度か昼休みのパン売場に行ったことがあるが、その輪の中に入ろうとはとても思わなかった。
「さあ、食おか」
三人が昼飯にはいる。
「ところでシンジ」
ケンスケが小声で話しかける。
「ん、」
「あの転校生どう見る」
「え、どうって・・」
「あいかわらずシンジはにぶいのー。近くで見てみてどないやったかって、聞いとんのや」
じれったそうにトウジが割ってはいる。
「うーーーん」
天井を見ながらシンジが考える。
「かわいかった、かな」
シンジの言葉にトウジとケンスケは目を合わせた。
「シンジ、おのれは自分の立場がまだわかってへんみたいやのー」
さらに小声でトウジが言った。
「なにが」
「いいか、お前は校内随一の美少女、惣流アスカの幼なじみで、しかも、互いにまんざらでもない関係なんだぞ」
ケンスケがにじり寄る。
「え、」
「おのれが校内で、どれほど男の恨みをかっとるんかしらんのか」
「し、しらないよー」
意外な話の展開にシンジはとっさに対応もできない。
「聞きましたか、相田はん」
「ええ、聞きましたよ、鈴原さん」
いつのまにか、ケンスケの眼鏡が反射して瞳が見えない。
「君はあの、惣流アスカにもっとも近い男なのだよ」
「そうや」
「あのうちの中学だけじゃない、第2・第3中学はもとより、高校でも噂に上るらしい、あの惣流アスカに気を持たれているかもしれない男なんだ」
「そやそや」
「そう、あのアップの顔写真なら五百円、水着姿の写真が千円以上で売り買いされる惣流アスカの心を独占できる男なんだ」
「撮るの苦労したなー」
「そんなことやってたの」
つっこむシンジ。
「そんなことはどうでもいい」
強引に話を戻すケンスケ。
「つまり君はそれほどまでにうらやましいやつなんだよ」
シンジの額に指を突きつける。
「せや、とんでもなくうらやましいやつなんや」
トウジも同じように指を突きつけた。
「な、なんだよ。ぼくにどうしろって言うんだよ」
じりじりと後退するシンジ。
「つまりだ」
ケンスケとトウジ。
「つまり・・・」
「あの転校生はわいらにまかせい」
「は、」
「シンジにはもう惣流がいるんだ。これ以上幸せを独占しちゃいけないよな」
「はあ」
「わかってくれたか、親友よ」
ケンスケが速攻で手を掴む。
「なんとなく」
しどろもどろなシンジは、あきらかに状況に流されている。
「よし、シンジも分かってくれたようやし、かんぱいや」
三人は手にパックジュースを掴むと手をあげた。
「シンジと惣流の前途と我らの友情を祝して、乾杯」
ばこん。
情けない音だが、パックジュースではしょうがない。
「くれぐれも転校生には手を出すなよ」
最後に二人の強烈な一睨みをうけて、シンジはジュースを飲み込んだ。
このとき始めてシンジは知った。あのアスカにつきまとわれることがそれほど羨望に値するとは。
アスカのびんたの痛みを知るシンジには信じられない。
「みんなはもしかしてマゾなのかな・・・」
恐い考えになってしまったシンジであった。






GenesisQ EPISODE 1:

Sweet Angel is Coming to Town.









終業のチャイムが鳴り、一週間でもっともしんどい月曜日が終わった。
部活をやっていないシンジとアスカは早々に帰り支度を始める。
「シンジ、今日空いてるか」
後は帰るだけのケンスケだ。
「うーん、なにもなかったかな」
首をかしげるシンジ。
「ゲーセン行かないか」
「そうだね」
と、シンジが乗り気になったとき、彼の携帯電話が鳴った。
「もしもし、シンジ」
「かあさん?」
電話の主はユイだった。
「もう終わったんでしょ。今日は早く帰ってきてね」
「えっ、かあさん家にいるの」
「ええ、午後から用事があってね。帰ってきたの。アスカちゃんもいる」
「いるよ」
「じゃあ、一緒に帰ってきてくれるとうれしいんだけど」
「うん、わかったよ」
そこで電話を切った。
「アスカ、一緒に帰らないか」
シンジが電話をしまいながら尋ねた。
「え、」
アスカの頬が一瞬だけ赤くなった。
「かあさんがさ、一緒に帰ってきてくれ。って、言ってるんだけど」
「そ、そう。いいわよ」
なにを期待していたのよ。
アスカは自分だけの世界でつぶやいた。
「トウジ、ケンスケ、ごめん。また今度な」
「ああ、べつにいいけど、おかあさんどうかしたの」
「なにも言ってなかったけど、早く帰ってこいなんて、珍しいからね」
「しんじー」
トウジがシンジの首に腕をまわす。
「約束、忘れんなよ」
「シンジは惣流がいんだからな」
ケンスケも加わって昼休みの確認らしい。
「わたしがどうしたって」
アスカが言うと、
「な、なんでもないよ。さ、かえろ」
シンジがごまかしてアスカの手を引いた。
「じゃ、」
それだけ言って、シンジとアスカは教室を出た。
「うまくやれよ、シンジ」
「わいはお前のこと信じとるで」
それぞれ勝手なことを言う二人であった。






言われてみればかわいいのかもしれない。
トウジとケンスケにあんな事を言われたので変に気にしてしまう。
「ね、もういいでしょ」
後ろを歩いていたアスカが言った。
「え、なにが」
「手よ。はなしたら」
教室を出てから下駄箱まで二人は仲良く手をつないで歩いてきたらしい。
「あ、ごめん」
慌てて手をはなすシンジ。
「うん」
アスカはいつもの元気がないのか、それだけ言うと下駄箱に手を伸ばした。
「いつもなら『なに手なんか握ってんのよ』とか言って怒るくせにどうしたんだろ」
頭の中だけでつぶやきながら、シンジも靴にはきかえた。

それから家につくまでの20分間二人は一言も口をきかなかった。
不自然な沈黙が終わりを告げたのはシンジがマンションのドアを開けたときだった。
「あれ、とうさんもいる」
玄関にはゲンドウの革靴があった。
「何があったんだろう」
ごく自然に(なるように努力して)アスカに声をかけてみた。
「ほんと、珍しいわね。おじさまがこんな時間に」
アスカも努めて平静を装っているようだ。
「ただいま」
靴をぬいで上がると、ユイが顔を出した。
「おかえりなさい、アスカちゃんもいるわね」
「うん」
「おじゃまします」
アスカが頭を下げる。
「はい、いらっしゃい」
ユイが微笑む。
「なにがあったの」
シンジの問いに、
「こっちにきて」
ユイが手招きで答えた。
顔を見合わせてシンジとアスカがリビングに入ると、ゲンドウが立っていた。
「シンジ、今日から家族が増えた」
唐突にそう言った。
「え、」
「綾波レイくんだ」
ゲンドウの後ろからあの転校生が現れる。
「よろしく・・・」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーー」
シンジ、アスカ、レイが同時に叫んだ。
「き、きみは・・」
「あ、あんたは・・・」
「あんたたち・・・」
三人ともひきつっている。
「なんだ、学校で会っていたのか」
ゲンドウがつまらなさそうに言った。
「シンジ、もう友達になってたの」
ユイがお茶を持ってきた。
「ともだちもなにも・・・・」
呆然とする三人をよそにゲンドウがお茶をすする。
「レイ君は私の古い友人のお子さんでな、彼が海外へ行くことになってね。家で預かることにしたんだ」
「それだけじゃないのよ、レイちゃんのお母さんは私のいとこなの。だからシンジとレイちゃんははとこになるのかしらね」
ユイはいつにも増してにこにこ顔だ。
「やけに嬉しそうだね」
シンジが言うと、
「とうさんもかあさんも女の子が欲しかったんだ」
ゲンドウはそう答えて茶を飲み干した。
「そ、そう」
シンジもそれ以上答えようがない。
「三人とも座ったら」
ユイが言うとアスカとレイも我に返った。
「なんであんたが、シンジの家にいるのよ」
「しょうがないじゃない、今日からここに居候なの。あんたこそなんでこんなところまで来るのよ。やっぱ、できてんの」
「あ、あたしは、おばさまに呼ばれたから来ただけよ。家も隣だし」
「ふーーん。あ、そう」
それから先は無言で睨み合う。
シンジには視線のスパークが見えるような気がした。
そんなレイとアスカのやりとりをユイとゲンドウは楽しそうに見ている。
「やっぱり、いいなー」
「ええ」
「なにが、いいんだよ」
シンジが突っ込む。
「これこそ女の子の醍醐味じゃないか、好きな男を挟んで口げんかなんて・・・。まさか生で見られるとは。私はいま、感激しているんだ。なあ、かあさん」
「ほんとにね」
だが、ゲンドウとユイのぼけは強烈だった。
「もっと見ていたいが、それは後日の楽しみにとっておこう」
「そうね。二人とも、それくらいにしておいたら。お茶が冷めちゃうわよ」
ユイの声で二人のにらみ合いは休戦された。
「ふん」
目をそらすときの一言が見事にシンクロしている事に気づいたシンジは妙なところで感心した。
「ま、とにかくだ。レイ君は今日から家族になる。部屋はシンジの隣だ。アスカ君も仲良くしてやって欲しい」
「なんで、こいつと・・・」
喉までこみ上げた一言を我慢するアスカ。
「大丈夫よ。あたし寝付きもいいし、いびきも歯ぎしりもしないから」
のんきにシンジに話すレイ。
「これからどうなるんだろう」
レイ・アスカ・ケンスケにトウジ、いろんな顔が頭の中でぐるぐると回るシンジ。
三人の想いとは別に、ゲンドウとユイだけは平然とお茶をすすっていた。








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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

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