民主主義文学会埼玉県連研究集会 講演メモ 2012年11月25日 風見梢太郎
「小説を書く上で大切なこと 体験から小説へ 書きたい事と書くべき事 」
○ 少し詳しい自己紹介
1948年生まれ、団塊の世代。仕事、文学との関わり、昔から小説を読むのは好きだったが・・・。きっかけは思想差別で仕事がなくなった。1983年に第18期の文学教室に参加。そこで書いたのが「ガラスの城」その年の支部誌同人誌推薦作。以後主に職場の闘いを書いてきた。別紙に一覧表。
○ サークル誌委員会6年、『民主文学』編集委員一年半やった経験
☆ 小説にとって一番大切なことは、体験をそのまま書かないこと、
・ 作者の人に聞いてみる、体験そのままじゃないですか・・・いいえ、そのままじゃない、名前も変えてありますし、都合の悪いことは書かいてない・・・そういうレベルの問題ではない。
・ 現実の出来事はたくさんのことが絡み合って綿々と進行するもの。これを限られた文章の中で表現し、起承転結を持った物語として完結させるには、実際におこったことと違った形にしなければならない。体験そのものを書くと一般に小説としてはわかりにくいものができあがる。
・ 体験を優先させると、ストーリーや人物についてあれこれの可能性をさぐり一番適切なもの選ぶ、という大切な作業が飛んでしまうことにもなる。
☆ もう一つ大事なことは、この作品で何を訴えたいかをはっきりさせることである。これがはっきりしていない小説が実に多い。
・ そして、この小説によって伝えたいこと、訴えたいことが、もっと劇的に感動をともなって伝わるためには、どうすればよいか。体験を材料に、新しく作り出すことの喜び。場所、場面、人物、これらをいろいろ工夫して、自分の伝えたいことを際立たせる・・・
・ その際、嘘っぽくなったり、整合性をなくしたり、作り物めいてはいけないのだが・・・
・ 私の体験、長く職場の闘争を書いてきた。職場を書く時。職場は一般にたくさんの人が関わって仕事が進み、活動が進んでいく。そのまま書くとごちゃごちゃしてわかりにくい。重複するところのある人物を集約する、何回にも分けて起ったことを一回にするなどシンプルにすることでわかりやすく、また深く書ける。また私は兄弟が大変多く、少年・青年時代をそのまま書くと複雑な家庭の中にテーマが埋没してしまう。
○ 書きたいことと、書くべきこと(書かねばならぬこと)
・ 私の体験 長く職場の闘いを書いてきた。書かねばならぬことだった。闘いの前進に少しでも役にたてば、と思って書いてきた。
・ 「しんぶん赤旗」から連載の依頼があった時の迷い、職場を描くことの困難。個人で判断しきれないところがある。いっそ昔のことを書いてみよう。
・ 関係者の反応
・ この二、三年の私の短編、継父物6作、原発問題4作。原発物は心意気あり。
・ 私にとっては両方必要である。相乗作用のようなものある
・ 3・11後の文学について
○ 『民主文学』編集部からのお願い
これまでに書いた小説 (*印は短編集『海岸隧道』に所収、『』は出版)
「凍てる知の泉」(『日本の科学者』1981年9月号〜12月号) 恋愛・結婚と職場の思想差別
「ガラスの城」*(『民主文学』1983年12月号) 校長が思想差別を受けている教え子を訪問
「頬に初夏の風」(同1984年8月号) 職場における思想差別との闘い
「射程」*(同 85年4月号) 職場における軍事研究に反対
「新星」(『文化評論』86年8月号) 衛星通信の軍事利用に反対
「就職」(『民主文学』87年4月号) 学生活動家が就職するまで
「向かい風」(同 88年2月号) 軍事研究と組合役員への立候補
「配属決定まで」(同 89年1月) 新入社員訓練
「投票」*(同 89年4月号) 女性主人公が職場の民主的候補に投票
「防潮堤」*(同 89年9月号、『小説の花束』U 所収) 弾圧下の職場で同僚を党に迎える話
「見晴らし台」*(同 90年6月号) 職場で久しぶりに仕事が与えられ夢中になる
「二十年」(同 91年4月号) 大学卒業から20年、元活動家との再会
「帰路」(同 91年10月号) 学生運動から逃避していた男が迷いながらも復帰
「証し」*(同 92年9月号) 職場の共産党員への共感
「うなる山頂」(同 93年4月号) 米軍のパラボラアンテナ撤去にまつわる思い出
「鳶よ舞い上がれ」*(同 95年9月号)(民主文学「短編小説秀作選」)論文発表妨害との闘い
「記憶」(同 98年1月号) 昔、職場でスパイ行為をした男の責任追及
「ウィンドウズ」(同 99年3月号) 職場の若者との共同行動
『けぶる対岸』(『民主文学』1999年7月号〜2000年6月号) 恋愛と思想差別
「無効票」(「しんぶん赤旗」2001年8月17日 掌編小説リレー) 約束してくれた票のゆくえ
『海蝕台地』(『女性のひろば』2002年10月月〜2003年12月) 論文発表妨害との闘い
「崖」(『民主文学』 2004年10月号) 初めて職場で昇格差別を受けた日のこと
「エンカレッジソング」(『民主文学』2005年5月号) 高校時代、学校を去る友人への応援歌
『浜風受くる日々に』(「しんぶん赤旗」 2008年1月〜6月)高校に教職員組合ができる
「防波堤の夜」(「しんぶん赤旗」2008年8月 掌編小説リレー) 精神を病む同僚を訪問
「失われた時間」(『民主文学』2010年1月号) 老人施設に医者である継父を訪ねる
「神の与え給いし時間」(同2010年6月号) 継父との束の間の共同生活
「家族の肖像」(同2010年11月号) 継父の死
「新しい朝」(同2011年8月号) 老人施設における継父の友人との交流
「湖岸の春」(同2011年11月号) 継父の思い出(ボート部の話)
「週休日変更」(同 2012年1月号) 原発事故を口実とした「節電施策」による困窮
「線量計」(同 2012年6月号) 孤独な原発労働者の発病
「四十年」(同 2012年9月号) 元活動家の原発メーカーの重役と再会
「森林汚染」(同 2013年1月号 予定) 林業労働者の被曝
渋谷支部誌『水車』には創刊号から最新号(23号)まで小説を発表。
短編、「父の休日」「海岸隧道」* 「国境」「引き潮」「ティベリス川のほとりで」など20作
長編 「雑木林」「暗闇の応援歌」「巨人解縛」