夕刻、大山に登る




 私の家は都心にあるので、午後からでかけることができる山は限られている。裏高尾とか、三浦半島の山くらいだろうか。なかなか丸一日時間がとれることが少ないので、半日くらいで登れる山がもっとあればいいのに、と思う。
 この日は、早く用事が終わったので、急にどこかに行きたくなった。日没が遅いこの時期には、大山くらいでも大丈夫ではないかと思い、水も食料も持たずに正午に家を飛び出した。
 新宿に着いたのが十二時四十分、小田急で伊勢原下車、ケーブル下までバス。バス停からケーブルの駅までは両側に店の並ぶ階段。いかにも観光地にきたという感じがする。滝の音が聞こえ、だんだんいい気持になる。缶ビールを二本買い、一本をその場で飲む。ケーブルカーに乗ったのが3時ちょうど。ケーブル終点から阿夫利神社の階段を登る。階段は途中から石のごろごろした道に変わる。道標があって十六丁とか十七丁とか書いてあるが、山頂が何丁かわからないのであまり役にたたない。さすがにもう登る人はいない。下ってくる人ばかりである。暗い陰気な道だ。暑いので、頻繁に休息をとる。
 山頂前に小さな鳥居があった。それをすぎて最後の急な階段を登ると奥社があらわれた。風が強いが、頂上からの見晴しはすばらしい。相模湾が見える。奥社の裏側は立ち入り禁止なので関東平野がやや見づらい。自動販売機でコーラを買う。冷えていてうまい。4時五十分。まだぜんぜん太陽は高い。蝉の声がうるさい。
 山頂からやや下ったところに、ヤビツ峠にいたる細い道が笹原の中に続いている。ヤビツ峠には一度行ったことがあるので、この道を選ぶ。気持ちのいい尾根道である。丹沢の山々が見える。途中急な下りも少しあるが、大体においてなだらかである。6時着。峠には人がたくさんいたので、バスもまだあるかと思ってバス停の時刻表をみたが、バスは四時半で終わり。みんなマイカーの人たちなのだろう。
 立派なトイレがあり、水も冷たい。ここでケーブル下で買ったビールを冷やす。
 蓑毛まで自動車道路を歩くのがいやだったので、林道に入る。ビールを飲むが苦くてあまりおいしくない。人のいない、静かな道である。途中から川にそった道になる。滝の多い美しい川である。右手に急流を見ながらどんどん下っていくと、マス釣り場や料理屋があらわれる。もう蓑毛は近そうだ。
 7時蓑毛バス停着。まだまだ明るい。 


もどる