「オルセー美術館展2010 ポスト印象派」の見どころ
 
現在、東京六本木の国立新美術館で開催されている「オルセー美術館展2010 『ポスト印象派』」は、印象派を基点にして19世紀末から20世紀はじめにかけての絵画諸相を一堂に紹介する大規模な企画となっている。
「ポスト印象派」と副題がついているが、来場者の一番人気は印象派の中心人物、モネの「日傘の女性」であるようだ。モネは同じテーマで三枚描いているが、そのうち二枚はオルセー美術館が所蔵。今回展示されているのは女性の顔が右を向いているものである。会場では大きな人だかりができていて、近寄るのが大変である。「ロンドン国会議事堂、霧の中に差す陽光」や「睡蓮の池、緑のハーモニー」は、同じテーマで描かれたモネの作品の中でも最上の出来栄えと言うべきだろう。ゴッホは7点、ゴーギャンは9点が展示されている。作品数が多いのはゴッホとゴーギャンの関係を浮き彫りにするコーナーが設けられているからである。一作ずつ上げるとすれば「アルルのゴッホの寝室」と「《黄色いキリスト》のある自画像」だろうか。セザンヌも「水浴の男たち」など有名なものが8点、スーラ、シニャック、ドニ、ボナールなどの作品も見応えがある。
アンリ・ルソーの作品は「蛇使いの女」と「戦争」。どちらも大作であり、オルセー美術館のルソー作品の二大看板である。
 アンリ・ルソーという画家に、私は大変興味を持っている。パリ市の入市税関に現場職員として勤めながら独学で絵を描き始めたが、アンデパンダン展に出品するたびに浴びせられる嘲笑と非難をものともせず、ひたすら自分の才能を信じて描き続けた。ジャングルを描いた一連の有名な作品はルソーの空想の産物である。生活に余裕のないルソーはもちろんジャングルに行ったことなどない。パリの植物園に通い、そこで観察したものを組み合わせて画布上にジャングルを作った。「ジャングル物」の中でも「蛇使いの女」は特別に完成度が高く異彩を放っている。笛を吹く蛇使いの女の黒い裸体が、巨大な蛇と水鳥の息づく夜の水辺の静寂の中に見事に描かれている。展覧会のカタログの表紙には「蛇使いの女」が採用されている。オルセー美術館にとってこの上なく貴重な作品なのであろう。「戦争」は、パリ・コミューンに参加した人々の虐殺を告発した作品と考えられている。累々とした市民の死骸の向こうには、石と木で作られた急ごしらえのバリケードがうっすらと見える。ルソーの平和への強い思いが伝わってくる作品だ。
オルセー美術館の大規模な改修工事により、所蔵品115点が貸し出されるという幸運にめぐまれ、名だたる名作がところ狭しとばかりに展示されいる。オルセー美術館に出かけて観るのと同じくらいの充実感が得られる展覧会である。   (8月16日まで 最寄り駅 地下鉄千代田線 乃木坂駅)