浜賀さんのこと (7)
 
 浜賀さんと私は大変気が合い、頻繁にお宅にお邪魔するようになりました。私の小説には浜賀さんをモデルにした人物がよく登場するようになりました。一番典型的な作品は短編「鍛造工場」です。これは渋谷支部の支部誌「水車」とい雑誌に載せましたが、後に長編『けぶる対岸』の中の挿話に使っています。『けぶる対岸』には善治郎という老人が大変重要な役割を果たしますが、この人物は浜賀さんをモデルにしています。モデルというより、もうほとんど浜賀さんその人と言うべきです。他にも短編「鳶よ舞い上がれ」や長編「海蝕台地」などは浜賀さんのイメージを使わせていただきました。最近の短編三部作「失われた時間」「神の与え給いし時間」「家族の肖像」は、一人で暮らすことが困難になってからの浜賀さんと私の生活体験が元になっています。
 浜賀さんをモデルにした人物は、たいてい小柄で痩せています。実物の浜賀さんを反映しています。たいてい気風がよく、思慮深く、また家族構成は夫婦二人か独居老人、これも浜賀さんの実在に重なるものです。
 私が書いた作品を浜賀さんはほとんど全部読んでおられたはずですが、あまり多くの批評をいただいた記憶がありません。浜賀さんをモデルにした作品についても特に長い感想は語られませんでした。「今度のはこれまでとちょっと違うね」と言われることがありました。後でこれは褒め言葉だとわかりました。