浜賀さんのこと (3)
浜賀さんは絵がとても好きでした。書斎の壁には畦地梅太郎や熊谷榧の版画が飾ってありました。熊谷榧はともかく、畦地梅太郎の版画は私にはとても風変わりに思えたのですが、浜賀さんはこの人の作品が気に入って何枚も購入しておられたようです。
浜賀さんが一番好きな画家はピカソです。ピカソに関する本をたくさん集め、熱心に研究しておられました。2008年の秋に国立新美術館で開催されたピカソ展にいっしょに行ったのですが、とても満足しておられました。特に「朝鮮の虐殺」という大きな絵が気に入ったようでした。美術館で絵を観ることは浜賀さんのご病気によい影響がるようでした。それで、いっしょにあちこちの美術館を回りました。
順不同で思い出すままにご一緒した展覧会や美術館を挙げてみます。
岡本太郎美術館(川崎市)、板橋区立美術館、江戸東京博物館(ボストン美術館展)、横浜美術館(セザンヌ展)、小野忠重版画館(阿佐ヶ谷)、町田国国際版画館(小野忠重展)、東京藝術大学美術館(シャガール展)、猪熊玄一郎展、熊谷榧展など。
浜賀さんは写実性の強い作品は好きでなく、強くデフォルメされた作品や抽象画を好まれました。私とは趣味が違い、絵画についてはなかなか一致点が見出せませんでした。
浜賀さんは若いころには、自分でも油絵を描いておられました。山の絵が多かったそうです。ほとんど人にあげてしまったということで、手元には数枚残っているだけでした。やはりデフォルメされた絵でした。浜賀さんの絵をとても気に入ったか、と訊かれれば、答えは「うーん」です。うまい絵だったかと訊かれれば、これも「うーん」です。文学も同じなのですが、やはり浜賀さんは実作よりも評論・研究に優れていたと言うべきなのかもしれません。