水曜ミステリー「深夜の自動販売機」


その日も相変わらずの残業で、帰りは深夜となっていた。
いつも残業の時は、帰りに事務所前の自動販売機でお茶などを買い、車の中でちびちび飲むのが私の日課である。

いつものように私は帰りしな、事務所の人に待っていてもらい、自動販売機へ行き、120円を入れた。
少し考えて、よし、今日はミルクティーにしよう、などと独り言を言いながらボタンを押した。
ピッという音のあと、缶が落ちる音が辺りに響く・・・のだが、その日はピッという音のあと、何も音がしない。
静まりかえっているのだ。
私はエッ!?と思いながら下の受け口を見ると、何もない。
なんで???
自動販売機は何事もなかったかのように平静を装っている。
もう一度確認しても、売り切れのランプも点いていないし、何の問題もなかったはずだ。
しかし、120円入れたにもかかわらず、私は無視されたのだ。

私はムカッときた。
何だ、コイツ。
無視するなんて、生意気な奴だ。
と思ったが、私も分別のある人間。
機械なんぞに怒っても仕様がないし。
仕方なくそっとノックしてみた。
もしもし。ミルクティー飲みたいんですけど・・・。
コンコン。
また無視された。
どうしようかと考えたが、気を取り直してもう一度トライしてみる
ことにした。
財布を出して小銭を見ると100円しかない。
私の中に不安がよぎった。
もし1000円を入れて、お茶もおつりも出なかったらどうしよう。

そうこうしているうちに、事務所の人が来て
「何やってんの?」
「あのー、お金入れたのにお茶が出てこないんですけど」
面倒くさそうに、事務所の人は
「たまにはそんなこともあるよ。他の自販機にするか、コンビニに寄ってあげるから」
と言われ、私はその自動販売機から引き離されたのである。
でも、私の中に割り切れないものが残る。
そのあと、事務所の人は何もかもなかったかのように、どこにも寄ってくれない。
私の夜のお茶の楽しみはその日、完全に打ち砕かれたのだ。
悔しい!
こうなったらコラムのネタにでもしないと気が済まない・・・。

皆さんも、すました自動販売機には気をつけましょう。