アース母線

アース母線は佐久間アンプのかなめです。
終段に交流点火の直熱管を使って,ハムが出ないアンプの秘密は,このアース母線にあります。
アースの配線については,理論的に考察もされ,さまざま方法が紹介されています。佐久間アンプで使われている方法は,大昔の手法です。今日ではほとんどアンプのアースは,1点にまとられ,その一点でシャーシと繋がっています。私も最初は,1点アースで佐久間アンプを製作したのですが,ハムが出てしました。しかし,佐久間さんのいうように,信号系と電源系を別々に考えて,それぞれにシャーシと接続するとハムがうそのように消えました。
また,アースは音にも影響します。
佐久間アンプは,アース母線を使用した2点アースで製作してください。

アース母線の用材

アンプのアース母線に使用するのは,ホームセンターなどで入手できる,洗濯機などのアースに使う線です。太さは何種類かありますが,2〜3ミリのものを使用します。
以前は,銅線やスズメッキ線なども使用しましたが,アース線が一番扱いやすいようです。
グリーンの被覆がありますが,すべて剥いでしまってもいいですし,ハンダ付け付けするところだけ剥いで使ってもかまいません。カッターなどを使えば,その部分の被覆だけを剥がすことが可能です。

なお,各部品からアース母線への配線は普通の配線コードを使用します。
途中で枝分かれしてもかまいませんが,よほど複雑な回路や改造したアンプでなければ,枝分かれは不要と思われます。
たとえば,ステレオアンプの場合,左右のチャンネルの真ん中にアース母線を通して,左右にアース母線の枝を伸ばすことで配線がしやすくなるでしょう。
佐久間さんの作品では,アース母線がシャーシの裏で垂れ下がらないように「支え」を作っている場合もあります。支えはアース母線と同じ線なので紛らわしいので,MJ無線と実験や単行本の写真を参考にする時は注意してください。
また,支えは,パワーアンプなどでは特に必要ありません。

アース母線の張り方

アース以外の配線が終わった後で,アース母線を張って,その後でまとめて配線します。
アース母線は,トランスなどの真上に張る場合が多いので,アース母線を張ってからトランスとアース母線を繋ぐ配線をするのは難しくなります。そのため,アース母線に繋ぐ配線コードはあらかじめ余裕をもった長さでトランスやカソード抵抗,ハムバラの中点などにコードの片方のみハンダづけしておき,アース母線を張ってから反対側をアース母線にハンダ付けします。また,こうすることでアースの配線忘れがなくなります。
アース母線へのハンダ付けはワット数の大きなはんだごてで確実行ってください。あらかじめアース母線へハンダメッキしておき,そこへ配線コードをはんだづけします。線を巻きつける必要はありません。

信号系と電源系

アース母線は信号系のアース母線と,電源系のアース母線の2本を張ります。
ここでは,アース母線の考え方を説明します。
下図はイコライザーアンプとパワーアンプの回路図です。アース記号の横に青で「S」と記入したアースは信号系のアースです。また,赤で「P」と記入した物は,電源系のアースを示します。


信号系

信号系のアースには,

直熱管,傍熱管のカソード抵抗のアース
信号系トランスのアース
グリッドのアース
入力端子のアース
出力端子のアース
傍熱管のヒーターアース
イコライザー素子のアース

があります。
これらすべてを信号系のアース母線へハンダ付けします。

イコライザーアンプの場合は,入力から順に,

1入力端子のアース
2入力トランス(TKS-27)のアース
3初段管(5691)のカソードのアース
4ドライバー(RCA42)のグリッド抵抗のアース
5ドライバー(RCA42)のカソード抵抗のアース
6ドライバー(RCA42)のヒーターアース
7信号系トランスA342のアース
8イコライザー素子のアース
9ドライバートランス(TN347)のアース
10終段のグリッド抵抗のアース
11終段のカソード抵抗のアース
12初段管(5691)のヒーターアース(くわしくは後述します)
13アウトプットトランスのアース
14出力端子のアース(マイナス側,黒色の端子)

以上すべてを信号系のアース母線にハンダ付けします。

回路図10-2のパワーアンプの場合は

信号系は,
1入力端子のアース
2ボリュームのアース
3入力トランスのアース
4ドライバー(RCA50)のカソード抵抗のアース
5ドライバートランス(STU-5K)のアース
6終段のグリッド抵抗のアース
7手段のカソード抵抗のアース
8アウトプットトランスのアース
9出力端子のアース

の順になります。

なお,パワートランスにもアース記号が付いている場合がありますが(回路図丸印),実際のパワートランスには,アースに接続する端子はでていません。トランスをシャーシに止めるネジのどれかにアースされています。

信号系の注意点

何度も言いますが,信号系のアース母線の両端には入力端子のアース側と,スピーカー端子のアース側がくるようにします。
他のアースはこの間の適当なところへハンダ付けします。 場合によっては,先に述べた順番どおりに並ばないこともあるかもしれませんが,あまり神経質になる必要はありません。

トランスのアースの端子(0と表示してある端子)からアース母線まで距離があるときには,配線コードを使ったり,アース母線と同じ線で枝を作ったりします。
ホーロー抵抗などは,穴に直接アース母線をとおしてハンダ付けしてもよいでしょう。
ただし,20Wのカソード抵抗は大きくて直接アース母線を取り付けられますが,どちらも熱量を必要とするハンダづけになるので,ハンダ付けが上手くいかない場合があるので注意してください。ホーロー抵抗は支えにもちょうど良いのですが,無理にハンダ付けしようとするほうがトラブルの原因になります。
トランスの端子やホーロー抵抗に直接アース母線をつけるときは,確実についたか十分注意してください。一見付いているようでも,電気が流れないことがあります。また,きれいにハンダ付けされていないと,ノイズの原因にもなります。
特にトランスは要注意です。配線コードを使ってアース母線とトランスをつないだ方がよいでしょう。 カソード抵抗からアース母線への配線が短ければ,アース母線もシャーシ内でふらつくことなく固定されます。佐久間さんは,ラグ板などを使用してアース母線を固定しますが,無理にアース母線をしっかりと固定しようと頑張らなくてもけっこうです。

シャーシへの接地

アース母線の入力端子側ををシャーシにハンダ付けします。
これをシャーシに「接地する」,「アースする」といいます。
出力端子側や,その他のところは接地しません。

シャーシへの接地の仕方には,いくつかの方法があります。
1シャーシにラグ板を付けて,シャーシに触れている端子に,配線コードをハンダ付けして,それをアース母線にハンダ付けする。

2シャーシにラグ板を付けて,直接アース母線をハンダ付けする。

3圧着端子をアース母線につけ,ネジでシャーシにとめる。

などです間違いがないのは,1-1のコードを利用する方法です。

なお,アース母線をシャーシに接地するのは,ハンダ付けがすべて終わり,チェックがすんでからです。 詳しくは,後の章で説明します。

アウトプットトランスの2次側

アウトプットトランスの2次側の配線は,0Vはスピーカー端子の黒いほうへ,8Ωや16Ωは赤いスピーカー端子へ接続します。
0Vの配線は,近くにアース母線があってもハンダ付けする個所はスピーカー端子のところ,アース母線の先端付近まで,コードをひきまわしてください。
実際の作業では,先にスピーカーからの配線を行うとアース母線を付けるときにハンダが外れることもあるので,注意してください。作業手順は工夫が必要になりますが,考え方は今述べたとおりです。
なお,アウトプットトランスの2次側の線は,どこを通してもかまいませんが,気分的に入力の近くや,電源の付近はさけて引いています。

初段のヒーター

イコライザーアンプの初段が傍熱管の場合,(ほとんど5691ですが),ヒーターのアースは,下図の回路図のように記載されています。



真空管やトランスのアースは近くのアース母線へ接続するのですが,初段管は特別な配線の仕方をします。
初段真空管のヒーターアースは,初段管のソケットの0V,またはハムバラの中点から配線コードを伸ばして,出力端子の0Vへ接続します。
上手の青色がアース母線,赤色が初段管のヒーター0V線です。
なお,以前は5691にもハムバラを付けていましたが,なしでも問題ありません。
また,ヒーター配線を真空管のソケットにハンダ付けするときは,グリッドの端子に近い端子にヒーターのマイナス側が来るように配線します。
これは,交流点火でも,直流点火でも同様にします。ハムバラがついていても,グリッドに近いほうにヒーター配線の0Vをはんだづけします。
初段以外の傍熱管の場合,完成後もしヒーターハムが激しいようでしたら,ヒーターのアースをスピーカー端子へ付けるか,またはどこへもつけないで外してみて(どこへも接地しない)ください。

電源系アース

電源系のアースに

は 電源トランスのアース
電源チョークのアース
電源のオイルコン,電解コンデンサーのアース
デカップリングコンデンサーのアース

があります。

回路図で見ていくと,

1電源トランスのアース
2電源チョークのアース
3電源のオイルコンまたは,電解コンデンサーのアース
4デカップリングコンデンサーのアース

となります。

電源系のアース母線は,電源トランスに近いところでシャーシに設置します。
アース母線の端に圧着端子をつけて,電源トランスの取り付けネジを利用してシャーシに設置すると便利です。この時,鬼目ナットなどを利用して,しっかりとネジ止めしてください。
ごくたまに電源トランスの止めネジを利用すると,ときおりノイズがのることがありますがそのような時は,アース母線がオイルコンデンサーなどにうまくハンダ付けされていないことが多いようです。また,圧着端子とアース母線の取付は端子を圧着端子した後でハンダを流してください。どうしても,ノイズが残るようだと,電源トランスの近くに,接地用の専用のネジをもうけた方がよいかもしれません。4ミリのネジで大丈夫でしょう。
この電源系のアース母線の接地は,845等の1000VくらいのB電源を使用するアンプでは,アンプのノイズを軽減する上でとても重要です。
スピーカーからビ〜〜というノイズが消えないときは,フィラメントの直流点火に問題があるか,あるいは,電源系アース母線の接地に問題があります。


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