弁慶浮世絵ばなし

講師 岩切友里子(平木浮世絵美術館研究員)
日時 1995年 5月 18日(木)
...浮世絵のジャンルの一つに武者絵がある。武者絵は武者の姿を描いたものだけ
ではなく、広く歴史説話上に題材をとった絵を含む。一枚絵の武者絵は初期浮世
から描かれていたが、その数は多くはなく、勝川派の作品によってその地盤が築
かれ、幕末に至って歌川国芳が数多くの多様な武者絵を描いて美人画、役者絵に
拮抗する一大ジャンルを形成した。また一枚絵とは別に武者絵は初期の時代から
武者絵本の形で広く親しまれており、教育的な意味も含んで子供達に与えられて
いた。
...描かれている人物や場面は、時好による変化を加えながらも何度も繰り返し描
かれ伝えられてきた。その話は正史よりも所謂、稗史野乗によるものが多く、当
時の人々にとっては子供から大人まで誰でもが知っている共通の知識となってい
た。 近代教育による知識ではなく、この江戸的な知識は、武者絵そのものの理
解だけではなく、浮世絵の見立絵を鑑賞するために必要不可欠なもので、狂歌や
川柳についても同じことが言える。
...江戸の子供達が眺めていた絵本や武者絵を見て、どのような話が伝えられてい
たのかを知ることは、江戸の常識を学ぶための有効な方法と考えられ、その一つ
江戸時代に伝えられた多くの英雄の中で、現在も馴染みの深い弁慶の話を採り上
げてみた。
...国芳には「十六武蔵坊」という弁慶一代記のような揃物(現在5図だけが知ら
れている)や「縞揃女弁慶」という美人見立の揃物がある。「縞揃女弁慶」は十
枚揃のシリーズで弁慶縞の着物を着た美人半身図を描いたものであるが、弁慶に
関する代表的な説話やエピソードを見立てたものなので、各図の示す内容の武者
絵を並べて見ることによってより理解を深めることができるかと思う。

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