鶴屋南北と五渡亭国貞
一 歌舞伎絵の世界

講師 中山幹雄(美術評論家・演劇研究家)
日時 1990年9月5日(水)
...歌舞伎に関するすべての絵画を "歌舞伎絵" とよび、歌舞伎役者の絵姿は、とくに
"役者絵" といい、浮世絵版画の一大ジャンルともなっている。
...江戸歌舞伎の最盛期は歌舞伎絵においても全盛期であった。天明期における鳥居派
や勝川派の活躍がその好例であろう。その後、文化文政期において、歌川派は、初代
豊国・三世豊国(五渡亭国貞)を中心に歌舞伎絵のジャンルを独占した。化政期から
天保期に描かれた歌舞伎絵を通して、その時期の演出や衣裳の洗練を見てとるととも
に、江戸歌舞伎の舞台の香を、ワンシーンごとの絵の中に追うことができる。
役者たちの衣裳の好み顔のこしらえ、体つき、見得の "かたち" とその動き、などと
ともに、大道具、小道具までも暗示してくれるのも、歌舞伎絵であるのだ。
...この時期の絵師と歌舞伎界の人々との関係は、実に密接なものがあった。ことに役
者絵は、歌舞伎の重要な宣伝機関だった。 芝居が上演されれば、江戸中の絵草子屋の
店頭には、その狂言の錦絵が飾られた。 初日前に並ぶこともあり、歌舞伎興行の宣伝
の一つともなっていたわけである。 三世豊国の役者絵は、舞台面にも影響を与え、
"絵面の見得" は彼の創造だといわれているほどである。花形役者の絵姿は、芝居見物
の記念ブロマイドとして、江戸土産として、とりわけ人気があり、さらに富山の薬売
りが全国に配り歩くなど、その数は大変なものとなっていたであろう。

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